技術紹介
論文紹介
2026年3月18日

ThinkTrap:ChatGPTなどのAIサービスを「考えすぎ」で止める新しいサイバー攻撃

はじめに

ChatGPT、Gemini、Claudeなど、AIと会話できるサービスが急速に普及しています。しかし、こうしたAIサービスには従来のサイバー攻撃とは異なる新しい弱点があることが、最新の研究で明らかになりました。

本記事では、上海交通大学の研究チームが発表した論文をもとに、AIサービスを停止に追い込む新しい攻撃手法「ThinkTrap」について解説します。

そもそもDoS攻撃とは?

DoS攻撃(Denial of Service attack)とは、ウェブサイトやオンラインサービスを使えなくする攻撃のことです。

お店に大量の人を送り込んで入口を塞ぎ、本当のお客さんが入れなくする嫌がらせをイメージしてください。従来のDoS攻撃も同様に、大量のアクセスを送りつけてサーバーをパンクさせる手法でした。

ThinkTrap攻撃とは?

「大量アクセス」ではなく「難問を解かせる」攻撃

ThinkTrapは従来とは全く違うアプローチを取ります。AIに「特殊な質問」を投げかけて、延々と考え続けさせる攻撃です。

学校の先生に質問する場面で例えると:

  • 従来の攻撃:100人の生徒が同時に「先生!」と呼びかけて困らせる
  • ThinkTrap:1人の生徒が「宇宙の果てはどうなっているか、すべての可能性を説明して」と質問し、先生を何時間も考え込ませる

たった数件の質問を送るだけで、AIサービス全体を止めてしまえるのです。

なぜAIは「考え続けて」しまうのか?

ChatGPTのようなAIは、質問を受けると一文字ずつ答えを生成しています。普段は適切なところで回答を終えますが、ThinkTrapの特殊な質問を受けると、「ここで終わりにしよう」という判断ができなくなり、延々と文章を生成し続けてしまいます

💡
AIシステムのセキュリティ対策に興味のある方は、AIを活用した脆弱性テストの最新事例もご覧ください」
AIにWebアプリを攻撃させてみた 【Strix】
AIエージェントによる次世代セキュリティ診断に興味はありますか? Furious Greenでは、AIを活用したセキュリティツールの導入支援や、開発チーム向けのセキュリティ研修を提供しています。「脆弱性スキャナの誤検知対応に疲れた」「セキュリティ診断のコストを抑えたい」といった課題をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。 無料相談 はじめに 「脆弱性スキャナを回したら大量の警告が出たが、調べたらほとんどが誤検知だった。」 これは開発者なら誰もが経験する経験です。 従来のセキュリティツールはルールベースでチェックを行うため、文脈を無視した警告を乱発します。一方で、文脈を理解して診断できる人間のホワイトハッカーを雇うには多大なコストと時間がかかります。 今回紹介する 「Strix」 は、その間を埋める新しいアプローチです。 これは単なるチェックツールではなく、AIエージェントが人間のハッカーのように思考し、脆弱性診断を行います。 Strixとは Strix は、人間のハッカーと同じように振る舞う「自律型のAIセキュリティエー

攻撃の仕組み

ThinkTrapはどのようにして「AIを考え込ませる質問」を作り出すのでしょうか。

試行錯誤で「効く質問」を探す

基本的な考え方はシンプルです。

  1. AIに色々な質問を投げかける
  2. AIの回答の長さを測る
  3. より長い回答を引き出した質問を「良い質問」として記録
  4. その質問を少しずつ変えて、さらに長い回答を引き出せないか試す
  5. これを繰り返し、最も長い回答を引き出す質問を見つける

効率よく探すための工夫

単純な試行錯誤では時間がかかりすぎるため、ThinkTrapでは数学的な手法で効率化しています。

  • 探索範囲の絞り込み:「どの部分を変えると効果が大きいか」を分析し、探索範囲を大幅に絞り込む
  • 進化アルゴリズムの活用:生物の進化のように、「より良い質問」を親として次世代の質問を生み出し、徐々に洗練させる

検知が難しい理由

こうして見つけた質問を、1分間に10件程度送るだけでサービス全体に影響を与えられます。通常の利用と見分けがつかないため、検知が非常に困難です。

CTA Image

AIサービスの安全な技術選定・運用体制に関心のある方は、無料ガイド『生成AI技術スタック選定ガイド 2026』もご活用ください

詳しくはこちら

攻撃の影響

研究チームが主要なAIサービスに対して実験を行った結果です。

実験で確認された被害

指標 被害の程度
処理速度 通常の1%まで低下
応答時間 通常の100倍に増加
サービス停止 80件程度の攻撃で完全にダウン

攻撃コストは驚くほど低い

攻撃対象 攻撃コスト
DeepSeek R1 約3円
Gemini 2.5 Pro 約15円
GPT-o4 約70円

コーヒー1杯より安いコストで、大規模なAIサービスを停止に追い込める可能性があります。

防御の難しさ

残念ながら、ThinkTrap攻撃を完全に防ぐ方法は現時点で確立されていません。

対策 課題
回答の長さを制限 約60〜80文字の制限でないと効果なし。実用的ではない
繰り返しの検出 攻撃による回答は多様なため検出困難
処理の順番待ち 長い回答が必要な正規の質問も遅くなる

どの対策も一長一短があり、「これで完璧」という方法はまだ見つかっていません。

💡
関連記事:AIエージェントによるセキュリティ自動化の実装パターン
Pythonライブラリ、脆弱性診断エージェントの作成
「AIエージェント開発、興味はあるけど何から始めればいいかわからない」 本記事のようなAIエージェントを自分で作れるようになりたい方へ、実践的なハンズオン研修を提供しています。 研修プログラムについて相談する → はじめに 本記事では、開発未経験であった筆者がFurious Green合同会社でのインターンを通じて初めてAIエージェントの開発に挑戦し、Python脆弱性診断エージェントを作成した際の記録をご紹介します。 プロジェクト概要 Pythonプロジェクトでは、依存するライブラリとそのバージョンを requirements.txt というファイルで管理するのが一般的です。このファイルは、pip を用いた開発環境の再現性を担保する上で重要な役割を担います。 今回は、この requirements.txt に記載されたライブラリのバージョンに脆弱性や非推奨バージョンが含まれていないかを自動診断するAI エージェントを開発しました。 動機 生成 AI でコードを書くことが当たり前となった昨今、Pythonの依存関係ファイル

まとめ

ThinkTrap攻撃は、AIサービスの新しい弱点を突いた攻撃手法です。

押さえておきたいポイント

  • ChatGPTなどのAIサービスは、特殊な質問で「考え込んで」しまう弱点がある
  • 少数の攻撃でサービス全体を止められる
  • 攻撃コストが非常に低く、検知も難しい
  • 完璧な防御策はまだ確立されていない

AIサービスの利用が広がる中、こうした新しいリスクについても理解しておくことが大切です。

参考文献

  • Yunzhe Li et al. "ThinkTrap: Denial-of-Service Attacks against Black-box LLM Services via Infinite Thinking." NDSS 2026. arXiv:2512.07086v1

自社のAI基盤やセキュリティ体制の設計についてご相談がある方は、お気軽にお問い合わせください

お問い合わせはこちら
Y
Author
Yuta Yamamoto
FURIOUS GREEN

AI技術の基礎から実践までを学べる研修で
エンジニアのスキルアップと組織の変革を支援します。

会社名
Furious Green合同会社 (Furious Green LLC)
法人番号
6020003019971
代表者
代表社員 ダラローザソアレス・フランシスコ
所在地
〒220-0012
神奈川県横浜市西区みなとみらい3-7-1
オーシャンゲートみなとみらい 8階
事業内容
・AI技術者育成 / 研修事業
・技術コンサルティング
・AIソリューション開発支援
適格請求書発行事業者
© 2026 Furious Green LLC. All rights reserved.